前回は「フェルマーの最終定理」についての話をした。今回もまた、少々数学的な話をしようと思う。今回は、「無理数」についての話だ。
無理数とは、数学的にいうと「整数の比として表せない数」である。整数の比で表せないというのは、言い換えると「分数の形では書けない」ということ。例えば、0.25は1/4と書くことができるので、無理数ではない。また、0.333333…や0.142857142857…の ように、0の後に同じ数が無限に繰り返される「循環小数」も、整数の比として表せるので無理数ではない(ちなみに、0.333333…は1/3、 0.142857142857…は1/7である)。では、どのような数が無理数なのかと言うと、「循環せずに無限に続く少数」である。その中でも一番有名 なのが円周率πだろう。3.141592…と、延々と数字が続く。そして、その数列には決して一定のパターンが無いのである。完全にランダムな数列が無限に続く、それが無理数である。
さ て、完全にランダムな数列が無限に続くとはどういうことか。それは、「この世に存在するあらゆる組み合わせは、一つの無理数に含まれる」ということであ る。私は数学のエキスパートではないので、無限に続く組み合わせ(上に書いた1/3の少数表記など)も含まれるのかは分からないが、少なくとも有限の組み 合わせに関しては、全て無理数に含まれるのである。最も分かり易い例は、電話番号だろう。電話番号は0から9の数字で構成される組み合わせ だ。国によって桁数の違いはあるし、携帯電話の方が番号が多いケースもある。しかし、この世に存在する全ての電話番号は、有限の組み合わせだ。そしてそれ は、πのどこかには、あなたの電話番号も含め、この世に存在する全ての電話番号が書かれているということなのである。ちなみに、「πのどこか」というの は、πの何桁目~何桁目には、という意味である。
また、数字を文字に置き換えるとさらに面白い。例えば、ホームページなどでよく使われる 「UTF-8」といったエンコードを使って、πを文字に置き換えてみる。先にも言ったように、πにはこの世に存在する全ての組み合わせが含まれるので、そ れを文字に置き換えた場合、この世に存在する全ての「文章」が含まれる、ということになる。今朝の朝刊の一面記事から聖書まで、ありとあらゆる文章は、π のどこかに含まれているのである。それどころか、私が今書こうとしている文章も、すでにπのどこかに書かれてしまっているのである。つまりπには、この世 にすでに存在する文章だけではなく、この先書かれることになる文章も全て含まれているのである。あなたが明日、誰かにメールを書いたとする。その内容は、 現時点では分からないだろう。しかし、無限に続くπの数列のどこかには、一語一句違わない文章がすでに書かれているのである。
さらに、数 字を文字以外の物にも置き換えることができる。πの各桁を2進法を使って表すと、無限に続く0と1の組み合わせが出現することになる。そして、コンピュー ターで処理するデータは全て、この0と1の組み合わせだ。あなたが今見ているこの画面も、私のスピーカーから流れてくるMP3の音源も、全て0と1の組み 合わせだ。つまり、コンピューター上で表現できる情報は、音であれ映像であれ、全てπに含まれているのである。モーツァルトの曲やダ・ヴィンチの絵画と いった過去の物だけでなく、「ファイナルファンタジーXII」のような現在制作中のゲームから、来年公開される全ての映画に至るまで、ありとあらゆる情報 は過去の物も未来の物も全てπに含まれているのだ。また、「攻殻機動隊」のラテン語版といった、今後いつまで待っても出現しないであろうものまで、πに含 まれているのである。
ちなみに、無理数は無限に続く数列なので、その完全な数値を明記することは事実上不可能である。だからこそ、「π」 といった記号を使って表すわけだ。他にも、√2といった無理数も存在するが、やはりここでも「√」という記号を使っている。しかし、正確な数値を表記する ことができない無理数も、長さが無理数の値を持つ線は存在する。HTMLだと記述が面倒なので証明はしないが、底辺以外の辺の長さが整数の二等辺直角三角 形の底辺の長さは、必ず√2の倍数、つまり無理数なのである(ピタゴラスの定理を使えばすぐ証明できる)。また、πは円の円周と直径の比率なのだから、直 径1の円の円周はπなので、これも無理数の値を持つ長さである。
とは言うものの、線を引くのにも、その長さを測るにも、「精度」という障 害がついて回るので、現実世界では完璧な二等辺直角三角形も真円も描くことはできない。あくまで概念的な話だ。それでも、長さ4cmの直線ABの上には、 点Aからの距離がちょうどπcmになる点は存在するのである。「ココ」と指し示すことは不可能だが、ABの上にはその点が存在しているのである。そんな無 理数の値、正確には「n桁目の値」は、計算によって求められる。ちょっと難しいかもしれないが、πの計算に興味のある方はこのページを見て欲しい。
完 全にランダムな数列が無限に続く無理数、そこには過去・現在・未来を通して時間を超えた、ありとあらゆる情報が記されている。つまりπは、完全な歴史書で あり、また真の予言書でもある。だが、私にとってそれ以上に驚異的なのは、この「π」というたった一文字で表される概念から、強いては円という単なる図形 から、過去・現在・未来を読み取ることのできる意識という存在である。

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