カルフールというのは、かのウォルマートに次ぐ世界第2位の流通業者。ヨーロッパを中心に、アジア、南アメリカと、世界中に店舗を進出し、昨年度の総 売上は12兆円近くにのぼる。そんな超大手が、日本市場から撤退する。その裏には、フランス人から見れば「不思議」と言わざるをえない、日本の消費者 の嗜好性が関連している。
フランスでしばらく生活した人ならば、知っているかもしれないが、向こうのスーパーは日本のものと比べ、かなり品揃えが悪い。それは、欠品している という意味ではなく、そもそも置いてある品数が少ないということ。例えば、ティッシュペーパー。基本的に、フランスのスーパーには、Kleenexというティッシュしか置いてない。むしろ、ティッシュペーパーのことをKleenexと呼ぶくらいである。
フランスでは、このようにメーカーの名前が、そのままある製品の固有名詞として使われていることが良くある。ティッシュの他には、Bicというボールペン メーカーが有名。最近でこそ、日本製の文房具が大量に輸入され、選択の幅は広がったが、ちょっと前まではボールペンと言えばBicしかないような 状態だった。その名残か、未だにボールペンのことをstylo Bic (Bicペン)と呼ぶ。
このように1種類しかないというのは、確かに極端なケースだが、それでもフランスのスーパーで一つの製品(マヨネーズなり、洗剤なり)が、3種類以上置 いてあるというのは稀である。これは、特に小さいスーパーに限ったことではない。むしろ、殆どの製品は3種類どころか、基本的には2種類しか置いてな いことが一般的である。
その2種類とは、「一番人気のあるメーカー」と、「一番安いメーカー」。要するに、フランスのスーパーでは、殆どの商品において、「超定番」と「激安 品」しか扱ってないのである。そして、フランス人からすれば、それはごく当然であり、そこに何の不満も感じない。お金があれば定番のものを買い、それが無 理なら安い方を買う。それ以上のものが欲しければ、専門店に探しに行けばいい。
しかし、日本は違う。フランスに留学していた時、1年ぶりくらいに日本に帰ってきてスーパーに買い物にいったら、あまりの品数に気持ち悪さすら感じた記憶がある。フランスとは比べ物にならないほど豊富な種類の商品が、それこそ目一杯ぎゅうぎゅう詰に陳列されている。醤油一つ取っても、何十年前からの定番と なっているキッコーマンから、有機大豆で作られたものまで、どんな小さなスーパーに行っても、大抵5~6種類は置いてあるだろう(100円ショップなどで は、ちょっと事情が異なるだろうが)。
しかし、そんなに種類がある中で、本当に売れるのは1つか2つだけ。製品によって若干異なるが、大抵は一番売れる商品が売上の70~80%を占めて いるそうだ。そうなると、小売業者としては、一番売れている商品だけ置いておければ理想的である。そうすれば、無駄な仕入れもしなくて済むし、余計な在庫を 抱えるリスクも減る。現に、カルフールも日本に来た当初は、そうした対応を取った。しかしその結果、一番売れていた商品の売上が減ってしまったという。
カルフールのスタッフは頭を悩ませた。売れない商品を棚からなくしたら、それまで売れていたはずのものまで売れなくなった。そこに、理論的な関係性はなかなか見出せない。しかし、しばらくして彼らは気付く。「日本人は選択肢を望む」ということを。
殆どの消費者というのは、醤油ならこれ、マヨネーズはこれ、といった決まった好みを持っていて、それが変わることは殆どない。キッコーマンを買う 人は、よほどのことが無い限り、他のメーカーのものを買うことは無い。しかし、お店に行った時にキッコーマンしか置いてないと、なぜか不満を感じる 。ちゃんと目的のものは見付かったのに、それ以外のものが置いてないと、「あのお店は品揃えが悪いから」と感じ、来なくなってしまう。
いやぁ、不思議である。探していたものが見付からないなら分かる。そりゃフランス人だって、欲しいと思っていたものがお店に置いてなければ、腹は立つ。むしろ、そこら辺の店員捕まえて不条理に切れるだろう。でも、日本の消費者は違う。探してたものあったじゃん!他のものなんか無くったって関係ない じゃん!という理屈は通じない。
そしてそれは、醤油だけではなく、マヨネーズ、清涼飲料、缶詰、スナック菓子…その他あらゆる製品に関して、同じことが言える。これは実際にカル フールで働いていた人から聞いたのだが、カルフール・ジャパンは8店舗しかないにも関わらず、大小合わせて1000店舗以上展開しているカルフール・フ ランスの2倍近いアイテム数(商品の種類)を扱っていたんだそうだ。
こうした品揃えの特殊性以外にも、しっかりとした接客が必要だったり(フランスのスーパー店員に「接客」という概念はない、ってくらい感じ悪い)、 ライバル店が異常にいっぱいいたり、とてもついていけないようなハイペースで新商品が出たりと、日本の消費嗜好というのは、フランス企業にはなかなか捉え きれなかったわけだ。
もちろん、無駄に店舗がでかかったり、どうしようもないほど交通の便の悪い場所にあったりと、カルフールが抱えていた問題点は他にもたくさんあるが、やはり日本の消費者の欲求を理解できなかったというのが、最大の敗因ではないかなと、私は思う。

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